第4章 真夏の夜の夢(ルフィ)
30度を超える、ある真夏の昼下がり。
頭から真っ黒なフードを目深に被った老婆が、港から続く大通りに現れた。
ここは島一番の商店街。
両脇にはずらりと商店が並び、道に沿って設けられた水路は表通りだけでなく裏手にも通って、多くの家々に生活水を送り届けている。
激しい人通り、荷馬車を引く馬が立てるむせかえるほどの土埃。
しかし、溢れる活気と、様々な店から飛び交う威勢の良い声が、この島の豊かさを象徴していた。
「・・・なに、あれ」
リンゴの入った箱を外に運び出そうとしていた果物屋の看板娘が、杖をつきながら歩いている老婆に気が付き、眉をひそめた。
立っているだけで汗が噴き出すほどの暑さだというのに、全身を黒いマントで覆い、背中をほぼ直角に曲げて歩く姿は、まるで異形の者だ。
目立たないようにと思って道の端を歩いているのだろうが、それがかえって人の目を引いているということに、老婆は気づいていないのだろうか。
すると、店の奥から出てきた店主が、看板娘にそっと耳打ちをした。
「あれは、岬に住んでいるクレイオ婆さんだ。生まれつきの醜い顔を隠すために、ああやってフードを被っているんだよ」
「醜い顔って・・・隠すほどのものなの?」
花のような10代の娘には、“人に見せられぬ顔”というものが想像つかないのだろう。
すると、彼女の父親である店主は、一度だけ見たことのあるクレイオの悍ましい顔を思い出し、周囲に聞かれないよう声をひそめた。
「あまり見てはいけない・・・憐れなお婆さんなんだよ、あんな顔を持って生まれてくるなんて・・・」
何をどう間違って生まれてしまったのか、あれは人間の顔ではない。
悪魔の悪戯としか思えないような醜さは一度見たら忘れない。
妻が娘を出産した時、あのような顔に生まれてこなくて良かった、と心底思ったほどだ。