第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
波に乗り、ゆっくりと港から離れていくメリー号。
それにともない、クレイオの姿も少しずつ小さくなっていく。
帆を張り終えたゾロが甲板に降りると、手すりに寄りかかりながら島を見つめていたロビンが小さく呟いた。
「───運命って、不思議なものね」
「・・・? 何言ってんだ、お前」
意味深なその言葉に首を傾げる。
すると、ロビンは黒髪を耳にかけながら微笑んだ。
「ちょうど5年前の今日よ・・・事故が起こった炭鉱に注水が行われて、生存者ゼロという報告が海軍によってなされたのは」
“注水を!! 始めてください!!!!”
この島の歴史上、最も多くの命を奪ったこの日、クレイオは彼らを弔うために島に残る決断をした。
ロビンはきっと、そのことを言いたかったのだろう。
しかし、ロビンの言葉は、それ以上に大事なことをゾロに気づかせる。
「チッ・・・もう間に合わねェか・・・」
ゾロは腹を括ると、数百メートルは離れていようかという港に向かって大きく叫んだ。
「クレイオ!!!」
もしかしたら、それは───
“ヒュー・・・ヒュー・・・”
喉が焼けてしまった母と。
“・・・お・・・ねえ・・・ちゃん・・・・・・”
塵肺に倒れ死にゆく弟が、最後に伝えたかったことだったのかもしれない。
大きなゾロの声に、クレイオが顔を上げた。
その直後に聞こえてきたのは、父が最後に口にしたのと同じ言葉。
「誕生日、おめでとう!!!!」
それは、この5年間、クレイオ自身すら“忘れよう”としていた言葉だった。