第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
部屋に入るなり、ゾロは口の片端を上げながら呟く。
「たった数日だったが、これが最後だと思うと名残惜しいもんだな」
最初の夜は、クレイオの身体から客の精液を掻き出した。
2日目の夜は、クレイオに安らかな眠りを与えた。
3日目の夜は、クレイオを力強く包み込んだ。
「ゾロ」
窓から望むことができる山から、黒い煙がまだ立ち上がっている。
クレイオは着ていた服を脱いで裸になると、炭鉱の方を見つめているゾロの背中に寄り添った。
「身体が汚れている・・・シャワーを浴びましょう」
血管の浮き出た筋肉・・・
この腕で貴方は、私をずっと苦しめていたものを、いとも簡単に壊してしまった。
「・・・・・・・・・・・・」
ゾロは山から目を離し、ゆっくりとクレイオを振り返ると、三本の刀を腰から外した。
「ああ、そうだな」
そして、その刀をクレイオに渡す。
その瞬間、クレイオの瞳が大きく開いた。
“・・・では、その腰の刀を”
最初の夜、刀を預かろうとしたクレイオに、ゾロはこういった。
“悪いが、これは見ず知らずの奴に触らせるわけにはいかねェ”
剣士にとって、命よりも大事な刀。
それを躊躇いもなくクレイオに渡す。
「知らない人間には触らせないんじゃなかったの?」
クレイオが嬉しそうに微笑むと、ゾロも目を細めながら笑みを浮かべた。
「見ず知らずの奴のために、人を斬ったりしねェよ」
この島に対してはなんの“義理”も“情”もない、だからこそ躊躇なくマフィアを潰すことができた。
罪に問われたとしても、もともと自分はお尋ね者。
傍から見れば、無差別に人を斬ったと映るかもしれないが、ゾロにとっては理由があってしたことだ。
「私・・・海賊が本当に分からなくなった」
衣服を脱いだゾロの逞しい肉体をそっと撫でながら、クレイオは瞳を揺らした。
「理解して欲しいなんて思ってねェよ」
ただ、生きて欲しい。
───自由に。
ゾロはクレイオの顎を上げると、その唇にキスをした。