第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
ゾロとクレイオが出会った、売春宿。
裏社会で絶大な権力を誇っていたマフィア組織が、たった一人の海賊によって壊滅したというニュースは、瞬く間に島中に広がっていた。
この売春宿にはクレイオの他にも、マフィアに借金をし、やむを得ずに娼婦をやっている者が少なくない。
組織が無くなった今、女達はその呪縛から解放されたとばかりに、男達の欲望の相手をすることなく、眩しい太陽の下を家に向かって走っていった。
「商売上がったりだ・・・海賊の野郎・・・これからこの島はどうなっちまうんだ」
娼婦達が逃げてしまい、店主はカウンターに両肘をつきながら頭を抱えていた。
違法まがいのことも、マフィアの後ろ盾があったからこそ。
“商品”の女達がほとんどいなくなり、下手したらこの店はつぶれてしまうかもしれない。
「それもこれも、あのロロノア・ゾロがこの店に来たせいだ」
苦虫を噛み潰したような顔でつぶやいたその瞬間、ドアのカウベルがカランと鳴った。
「悪い、邪魔するぞ」
入ってきたのは、今まさに店主に頭を抱えさせていた張本人。
どす黒い血がこびりついているシャツと、人間を斬ってきたばかりの鋭い瞳を見た瞬間、恐怖で背筋が凍りついた。
「・・・クレイオを買った。上の部屋、使わせてもらうぞ」
「え・・・ええ、どうぞ」
有無を言わさないその迫力に、店主はただ彼を迎え入れるしかなかった。
見れば、クレイオはまるで“娼婦のように”海賊と腕を組み、幸せそうに微笑んでいる。
彼女のこんな表情を、店主は見たことが無かった。