第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
ゾロはクレイオの方を向くと、親指で山の方を指さした。
「お前を苦しめていた奴ら・・・お前の親父の会社もろともブッ壊してきた」
元・炭鉱会社に起きている火災。
島の人々はそれを見守るだけで、消火しようという者は誰一人いない。
それは、あのビルがマフィアの温床となっていることを知っているからだった。
「もちろん、これでお前を苦しめるもんが無くなったわけじゃねェ・・・」
だけど、その“元凶”は跡形もなく潰してきた。
あとはこの島がそれをどう受け止めるかだ。
「ナミ。ログはあとどれくらいで溜まる?」
「ログ? 多分、明日の朝には」
「そうか」
それが、ゾロ達に残された時間。
他人の血を浴びた剣士は、美しい墓に目を向けながら口を開く。
「もし、おれのしたことがお前にとって何かの意味を成すなら───」
燃え落ちていくビル。
悲鳴を上げるマフィア。
二度とクレイオには関わらないから命だけは助けてくれと懇願する副社長。
「これを代償として、あと一晩だけお前を買いたい」
みんなの前で堂々と娼婦を買おうとしているゾロに、仲間は誰一人、それを止めようとも、バカにしようともしなかった。
誰もが、後押しするように優しく微笑んでいる。
「・・・ゾロ・・・」
この世界に確かなものなどないけれど・・・
たった一つだけ分かることがある。
これがきっと“最後”だと───
「最後のお客が貴方で良かった」
クレイオは嬉しそうに微笑み、人を斬ってきたばかりのゾロの手を握った。