第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
「・・・おい、お前ら」
それまで流れていた和やかな空気に、一瞬にして緊張が走る。
クレイオでも分かるほどの、物凄い殺気がそこら中に漂い始めた。
「・・・・・・・・・・・・」
振り返ると、そこには黒いバンダナを頭に巻いたゾロ。
刀は鞘に収まっているものの、服や頬には血がべっとりと付いていた。
それは明らかにゾロ自身の血ではない。
「ゾロ・・・」
「それ、クレイオの弟の墓か?」
硬直しているクレイオには言葉をかけず、ウソップ達が作った墓の方に目をやる。
そしてスタスタと横を通り過ぎると、棺桶に向かってパンッと両手を合わせた。
「おい・・・クレイオちゃんが怖がっているだろ。その殺気をどうにかしろ、アホマリモ!」
「ンだ、バカコック! 知らねーよ、斬ってきたばかりだから抑えようがねェ!」
グリグリと背中に踵を入れてくるサンジを、ゾロがイラついたように振り返る。
二人ともすごい形相をしていたが、ナミは呆れながら二人の頭を叩いた。
「ちょっと、お墓の前よ! 静かにしなさい!」
「何すんだ、ナミ!」
「はぁい、ナミさん!」
ゾロのこれだけの殺気を前にしても、ナミを始め、仲間達は平然としている。
それはきっと、この人達も同じように強いからだろう。
「それよりルフィは? あんたと一緒じゃ無かったの?」
「ルフィ? ああ、クレイオの親父の会社のそばで見かけたけどな。カブトムシを捕まえるとか言って、どっか行ったぞ」
“よう、ゾロ。一人で大丈夫そうだな”
“なんだルフィ、心配してきてくれたのか? 悪いが、ここにいるのは雑魚だけだ”
“そっか。じゃあ、おれ、ヘラクレス探してくる! いそうな気がするんだ! あと、岬のとこでウソップ達が墓造ってっから、終わったらそこに行け”
「はあ? カブトムシ? ゾロに加勢するならまだしも、何やってんのあいつ」
「加勢なんて必要ねェよ。雑魚すぎて話にならなかった・・・」
───そもそも、問答無用で斬りこんで、“話”などしていないのだろうが。