第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
「なーに。アンタ、ゾロの知り合いのくせに、海賊のこと何も分かってないのね」
そう言って、バシンと肩を叩いてくる。
まったく遠慮のない手だったが、鞭とは違い、叩かれた場所がほんのりと温かい。
「私達が“お礼”を要求しないなんて、滅多にないことよ? だからありがたく思いなさい」
「そうだぞ。ナミが金や財宝を要求しないなんて、天変地異の前触れか・・・?」
間髪入れずにウソップの脳天にナミのゲンコツが落ちた。
少し離れた場所にいるロビンも、それを見てニコニコしている。
「とにかく! ゴチャゴチャ考えないで、黙って受け取りなさいよ。もう造っちゃったんだから」
「・・・・・・・・・・・・」
黙って・・・受け取る?
この両手に余るほどの優しさを・・・?
“見返りになるようなモンを持ってねェなら、出されたモンぐらい黙って受け取ってろ”
「ああ・・・そうか・・・」
やっぱりこの人達は、紛れもなくゾロの仲間だ・・・
「ありがとうございます」
海賊、“麦わらの一味”────
弟を診てくれたチョッパー。
温かいお弁当を作ってくれたサンジ。
墓を建ててくれたウソップ。
痛みを分かってくれたナミ。
事情を察してくれたロビン。
“ルフィや仲間の首まで狙うっつうなら、お前でも容赦しねェ”
あのゾロにそこまで言わせる理由がよく分かる。
「こんなに素敵な仲間達がいて、ゾロがうらやましい・・・」
そして、同時に思う。
「船長さん・・・“麦わらのルフィ”は、本当に素敵な人なんだろうな」
辺りを見渡しても、それらしい人はいない。
「ああ、ルフィならゾロの所に行っている。あいつがおとなしく一つの場所にいるわけねェもんな」
サンジが肩をすくめながらそう言った時だった。