第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
「クレイオ・・・食事中だけど、ちょっといいかな」
「チョッパーちゃん・・・?」
「あれからおれ、弟の身体を調べてみたんだ・・・」
弟の身体からは、塵肺の症状を和らげる薬物はいっさい検出されなかった。
治療が施されておらず、衰弱していくばかりだった。
「ごめん・・・もし、おれが間に合っていたとしても、助けることはできなかった」
「・・・・・・・・・・・・」
「ただ、これだけは言わせてくれ。弟は死ぬ直前に両手首に痣ができるほどの仕打ちを受けていたんだろうけど、それが直接な死因じゃない」
チョッパーは、弟が吊られていた天井を見上げた。
その目には涙が浮かんでいる。
「塵肺によってできた腫瘍が体中に転移していた。でも・・・おれなら、もう少し苦しまないようにしてやることができた」
「チョッパーちゃん・・・」
「ごめん・・・間に合わなくて、ごめん・・・」
人間とも、動物とも思えないこの小さな生き物が、大粒の涙を流しながらクレイオに頭を下げている。
それはとても温かく、優しい涙だった。
「謝る必要はどこにもないよ、チョッパーちゃん」
「・・・・・・・・・・・・」
「あの子が塵肺になったのは運命だった・・・お父さんとお母さんが死んだように」
ただ、その死を早める原因となったのが、副社長達に天井から吊るされたことでなくて本当に良かった。
「最後にチョッパーちゃんのような優しいお医者さんに診てもらえることができて・・・弟も喜んでいると思う。本当にありがとう」
すると、チョッパーは泣き声を上げながらクレイオに飛びついてきた。
医者として、目の前の命を救えなかったことがよほど悔しかったのだろう。
そんなチョッパーとクレイオを見つめ、サンジは紫煙を細く吐き出す。
「いいか、クソマリモ・・・全てを潰してこい。じゃねェと蹴り飛ばすぞ」
火の手が上がり始めた山を見つめ、小さな声でそうつぶやいた。