第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
「それより、クレイオちゃん・・・これは大事なことなんだが・・・」
「は、はい・・・」
ゾロが今、どこへ行っているのかを聞かされると思って、クレイオは身構えた。
しかし、コックの口をついて出てきたのは、それまでの雰囲気をぶち壊す言葉。
「ゾロに変なことはされてねェか?! あのクソ剣士、クレイオちゃんと一つ部屋の下で・・・!! なんてうらやま、じゃない、なんてけしからんヤローだ!!」
それまでの紳士的な態度はどこへいったのか、メラメラとゾロに対しての敵対心を露わにしている。
・・・仲間じゃないのか? とクレイオは戸惑ったが、チョッパーには特に気にした様子もないのでいつものことなのかもしれない。
「あの・・・何も聞いていないかもしれませんが、私は娼婦なんです。一晩を共にするのは私にとっては仕事なので、ゾロを責めないでください」
「娼婦・・・だと?」
当然、その後に続く言葉は、娼婦に対する蔑みだと思っていた。
しかし、サンジはクレイオの予想とまったく違う言葉を叫ぶ。
「あんにゃろう!!! クレイオちゃんが娼婦なのをいいことに、アンなことやコンなことを好き勝手にしてたら絶対に許さねェ!!!」
どうやら火に油を注いでしまったようだ。
まったくの見ず知らずの人間・・・しかも娼婦に、これほどまで気をかける人がいるなんて信じられない。
「サンジさん。ゾロは、私に一度も手を出していませんよ」
「本当かい? ほんのちょーっとでもイヤなこともされてねェか?」
「はい。ちょっと悔しいくらい・・・私には興味を持ってくれなかった」
それでもサンジの怒りを収まらないようで、煙草を咥えながら歯ぎしりしている。
「“据え膳食わぬは男の恥”って言うだろうが、クソマリモ・・・逆にクレイオちゃんに恥をかかせてどうするんだ!!」
「・・・・・・・・・・・・」
ダメだ。
きっとサンジは、ゾロが手を出していてもいなくても気に入らないのかもしれない。
すると、チョッパーが申し訳なさそうにクレイオの手を握った。