第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
「朝から何も食ってないんだろ? まずは食べてくれ」
食卓の上に次々と並べられていくご馳走の数々に、どうしていいか分からず立ち尽くしているクレイオに、男は気遣うような瞳を向けた。
「心配しなくていい、おれはサンジ。ゾロと同じ船に乗ってるコックだ」
「サンジ・・・さん・・・」
では、この人も海賊・・・?
チョッパーといい、ロビンといい、ゾロの仲間達はみんな海賊のイメージからかけ離れている。
「これ・・・私のためにわざわざ・・・?」
目の前には、まるで高級レストランのフルコースのように彩鮮やかで、繊細な料理が並んでいた。
「そりゃもう! クレイオちゃんのことを思いながら作ったから最高に美味しいよ!」
「・・・・・・・・・・・・」
誰かにご飯を作ってもらうなんて、事故以来無かったことだ。
綺麗に巻かれた卵焼きを口に入れると、ほんのりと優しい甘さが広がる。
ふと気が緩んだ瞬間、涙が溢れてきた。
すると、サンジは胸元のポケットから煙草を一本出すと、口に咥えて火をつけた。
「だいたいの話はチョッパーから聞いている。つらかったな」
「・・・・・・・・・・・・」
「この島の連中、クレイオちゃんに守られたようなものなのに、恨みをぶつけるなんて許せねェ・・・」
「あの、ゾロは・・・?」
サンジとチョッパーは一瞬黙ってから、山の方で火事が起こっていると騒がしい外に目を向けた。
「あのアホなりに思うところがあったんだろ。無理もねェ・・・こんな素敵なレディの涙を見せられちゃあな」
サンジという人は、ゾロとはまったく違ったタイプの人間のようだ。
しかし、軽い口をたたくわりには、その瞳はどこかゾロを彷彿とさせる。
きっと、同じように固い信念を持っているのだろう。