第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
「ひでェ有り様だな、こりゃ」
クレイオの父のものだった会社は、文字が読めないほど看板がボコボコに傷つけられている。
このビルを乗っ取ったマフィアがやったのか、それともクレイオの父に恨みを持つ島の人間がやったのか。
どちらにせよ、ここはもうクレイオの思い出の場所ではない。
「じ、じゃあ、おれはこれで・・・!」
「おー、助かった」
誰かに見られてとばっちりを受ける前に逃げたかったのだろう。
チンピラはそそくさとどこかへ消えてしまった。
鉄格子で閉ざされた、炭鉱トンネル。
5年前、ここで数百人が命を失った。
ビルの前の広場。
5年前、ここでクレイオの父親が拳銃自殺をした。
わざわざその場所を拠点にした副社長には吐き気がする。
「・・・さて」
どうするか。
ご丁寧に正面玄関から行ったところで、歓迎はされないだろう。
そもそも、本当にここに副社長だった男がいるかどうかもわからない。
「面倒臭ェな」
悩むこと、0.5秒。
「───斬るか」
ゾロは「和道一文字」を鞘から抜くと、ゆっくりと口に咥えた。