第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
5年前までは炭鉱で栄えたという島。
港町から炭鉱町を繋ぐ1本道は広く舗装され、石炭を乗せた馬車が行き来していた名残がある。
顔を上げれば、一度に50人は運搬できようかというエレベーターの鉄枠が、山のいたるところに設置されているのが見えた。
だが、それも動いている気配はない。
ゾロは三本の刀に手をかけると、顔をしかめながら三階建てのビルに目を向けた。
「おい・・・ありゃ、昔は炭鉱会社だった建物じゃねェのか?」
「はい、はい! 今はマフィアのアジトになっているんで」
副社長だった男を斬ると決めても、場所が分からない。
クレイオの家にいた手下の一人に案内させるという手もあったが、それも面倒だと思っていた頃、ちょうどよくゾロにいちゃもんをつけてきたチンピラがいた。
「本当にここだろうな? 嘘だったら承知しねェぞ」
「ひっ・・・! ここです! 間違いねェ!!」
先ほどから殺気を隠そうともしないゾロに、チンピラは今にも口から泡を吹きそうな勢いで怯えている。
金と一緒にあわよくば三本の刀を奪おうとした、数十分前の自分の行動を悔やんで仕方ない。
「だが、本当に手を出さねェ方がいい・・・命がいくつあっても足りねェよ!」
「ほう・・・そりゃ楽しそうだ」
聞けば、あの爆発事故によって大量の犠牲者を出したことを、島と海軍は近隣国に知られぬよう揉み消したという。
“ガスが蔓延する危険な島”とあらぬ噂を立てられては、観光業にも影響が出かねない。それは島の信用を守るためだった。
しかし、“無かったことにされた”犠牲者達の遺族、仕事を失った炭鉱夫達はそんな島の権力者を恨み、行き場のない怒りをぶつけるためにマフィアへと身を滅ぼしていった。