第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
「ちょっとどういうつもり、ルフィ!!」
ゾロが出て行ったあとで、ナミはお決まりの怒鳴り声をルフィにぶつけた。
しかし、当の本人はサンジが出したおやつにかぶりついている。
「なんだよ、ナミ~」
「ゾロ一人で行かせるって・・・! この島のマフィアは本当にヤバいのよ!!」
「あいつがそう簡単にやられるわけねェだろ」
それよりも特大マフィンを食べる方が大事、とばかりに頬を膨らませている船長に、ナミは頭を抱えた。
「あのね、この島はもともと石炭業が盛んだったらしいんだけど、5年前に大事故が起こってから、経済が破たんしたの」
「うんうん、なるほどな」
「アンタ、全然分かってないでしょ。この島の経済はマフィアによって成り立っているといっても過言じゃない。それを壊すということは、一国を相手に戦うようなものなの!!」
「そりゃ~、大変だ」
「もう! ゾロを行かせるのは構わないけれど、一人じゃ無理って言っているのよ!」
絶対に理解していない様子のルフィに、ナミが鉄拳をくらわせようとしたその時。
麦わら帽子に手を当てながら、船長は真っ直ぐな瞳で微笑んだ。
「これは、ゾロのケンカだ。おれ達が手を出しちゃいけねェんだよ」
「・・・ル、ルフィ・・・」
ゾロは一人で戦うことを望んでいる。
だから理由を話さなかったんだろうし、“船長の許可”を取りにきたのだろう。
「けどよ」
船の上から見える島の中心街を見据えるルフィ。
その姿には、静かなる圧力があった。
「もしゾロに何かあったら、そん時はおれ達のケンカだ」
たとえどれほどの権力が相手だろうと、仲間を傷つけるものは許さない。
「ゾロなら心配いらねェことぐらい、お前もよく知っているだろ、ナミ!」
笑顔でそう言った船長の言葉に異論を唱える者はいない。
サンジは煙草の煙をゆっくりと吐き出し、ロビンは微笑む。
ウソップは“武者震い”をし、チョッパーも大きく頷いた。
「まったく・・・うちの男どもはどうしてこうなの・・・?」
しかし、ナミもまたそれ以上は何も言わず、決意を秘めた瞳を島の中心街へと向けた。