第10章 機械仕掛けの海賊はブルースを歌う(フランキー)
手術室に入り麻酔をかけられる前、フランキーから改造についての簡単な説明があった。
骨格を形成する特殊合金について、
人工皮膚と人工筋肉の主成分について、
脊髄と人工神経を繋ぐために残った下半身の9割を機械化すること、
それにより生殖器官は全て失うということ、
そしてそれらの成功率が・・・
10%を切るということ。
「手術中は枕元輸血を行う。献血者は血液型からウソップになった。安心してくれ、感染症が無いことは確認済みだ」
そう説明してくれたチョッパーの後ろでは、輸血に備えているつもりなのかウソップがレバーやプルーンを口いっぱいに頬張っていた。
「さて、説明は以上だ。どうする、怖じ気づいたなら辞めてもいいんだぜ?」
フランキーが片眉を上げながらそう言った。
怖い?
当たり前だろう、これから身体を作り替えようというのだから気を失いそうなほど怖い。
しかも脚だけでなく、女性器を全て失うというのだ。
それは覚悟していなかった。
人間として生きることはできても、女性として生きることはもうできない。
「手術を辞めるかって・・・? 愚問ね」
クレイオはそっと目を閉じると唇を噛んだ。
瞼の向こうにこれまでの半生が蘇る。
女の子は立派な海兵になることなどできない。
必死に努力したところで、海兵としての才能がない。
それでも努力して頂上決戦に参加したところで、足手まといでしかない。
そう言われ続けてきた・・・けれど、私は・・・・・・
「私は女である前に海兵だ。海兵であり続けるために、得なくてはならないものは何としてでも得るし、捨てなければならないものは何であっても捨てる」
それがたとえ女性としての命であっても。
「私は必ず再び歩いてみせる」
するとフランキーは嬉しそうに笑った。
そして相手の健闘を祈るように、鉄製の右手を差し出す。
「まずはこのおれが手術を成功させる。オメェの勝負はそれからだ」
握手をする代わりに、あてがわれた麻酔マスク。
そこから伸びる管の先に取り付けられた呼吸器から排出されるガスを吸い込むと、クレイオはゆっくりと深い眠りに誘われていった。