第10章 機械仕掛けの海賊はブルースを歌う(フランキー)
フランキーとクレイオの間に置かれた、見えない“拳銃”。
海賊は怯えることなくそれを手に取り、銃口を相手に向けようとしている。
一人の海兵の身体を作り変える。
神の領域であるはずのその技術は、彼が拳銃に込めた弾丸だった。
もしその弾が暴発すれば、自らにも死が訪れかねない。
自分の敵をその手で作り上げてしまうからだ。
「言っておくが、容赦しねェぞ」
それでもおれは自分の持てる技術をお前に与えよう。
「おれが与える痛みはハンパじゃねェ。自分で自分を改造したおれが言うんだからな」
冷たい鉄の身体に覆われた、生身の心。
「・・・それでももし、お前が生きていたら、おれ達の負けだ」
生身の身体に覆われた、冷たい鉄の心。
果たして、一発の銃弾はどちらの心臓を貫くのだろうか。
「ふ・・・」
クレイオは張りつめた緊張感の中、小さく笑った。
心から憎んだ海賊に身体を託し、下半身を作り変えてもらう。
たとえ痛みに耐えきることができたとしても、その先に待ち受けるのは自分の身体の変化を受け入れるまでの過酷な時間だ。
「海賊が海兵の身体を改造する、か・・・」
“もしおれ達を捕まえたいのなら・・・お前の命がそれなりだってことを証明してみせろ!”
───いいだろう、私の海兵としての命がどれほどのものか証明してみせる。
「私は海軍支部第二十七部隊所属、クレイオ二等兵」
一度人生を終わらせなければ、潰えた夢を取り戻すことができないのなら。
「その勝負・・・受けてたとう」
翼が折れた一羽のカモメはそっと目を閉じ、拳銃が火を噴くその瞬間を待つ。
「いい度胸じゃねェか・・・惚れちまいそうだぜ」
“運命”という名の拳銃は、カモメを生かすのか、それとも殺すのか。
海賊は口元に笑みを浮かべ、どちらか一方の命を奪う引き金を引いた。