第10章 機械仕掛けの海賊はブルースを歌う(フランキー)
砂漠に落とされた一滴の水。
黒足の手料理はまさにそれだった。
喉を落ちていくスープが身体に温もりを与え、胃に落ちていくパスタが身体に力を与える。
味だけでなく滋養強壮にまで気を使われた料理は、すっかりと食が細くなっていたクレイオの消化器官に負担をかけることなく吸収されていこうとしているのが分かった。
ああ、そういえば見習い時代に教官が言っていた。
“軍隊は胃袋で行進するのだ”
だから食事はしっかりと取らなくてはならない、と────
「飯を食うと、生きているって実感するよな」
クレイオを見守っていたサンジが優しく微笑みながら言った。
「空っぽの袋は立てて置くことができないだろ。それと同じさ、空腹では自分の信念を貫くこともできねェ」
彼女の信念がたとえ、自分達をインぺルダウンに送ることであっても。
“黒足のサンジ”は紫煙をくゆらせながら、空っぽになった食器を見て目を細めた。
「礼は・・・言わないぞ」
「顔色悪かったレディのほっぺがピンク色になった・・・おれにとっちゃそれで十分さ」
「・・・・・・・・・・・・」
外見は軟派な男だが、彼が発する言葉自体は決して軽いものではない。
「さて、海兵ちゃん。これからどうする?」
ここは海賊船。
何も武器を持たない自分は今、捕虜になったも同然だ。
しかしサンジはここで意外な言葉を吐いた。
「もしおれ達と本気で戦う気があるなら中に入れよ」
「中に・・・?」
「フランキーが海兵ちゃんに“宣戦布告”したいらしいぜ」
「宣戦布告・・・?」
それは全員が賞金首である海賊団が、一人の海兵に対して戦争を開始する意志表示。
すなわち、麦わら海賊団がクレイオを“敵”として見なす意志があるということだ。
満天の星空。
穏やかな海。
静かに停泊する海賊船で今、一つの戦いが始まろうとしていた。