第10章 機械仕掛けの海賊はブルースを歌う(フランキー)
“新世界”といえど、夜の海は穏やかだ。
だけどここは海軍の軍艦島。
麦わら海賊団の存在が知られれば、一気に戦場と化すだろう。
それでもサンジは敵であるはずのクレイオに食べ物を差し出していた。
「今、君の目の前には飯がある。そして、君は腹が減っている」
「・・・・・・・・・・・・」
「おれはこの飯を君に食ってもらいたい。海賊としてではなく、コックとしての願いさ」
君は海賊が作ったものなど口に入れられないと言った。
だが、一人のコックが作ったものならば食べられるだろう?
「それに君は悔しくないのかい? フランキーやウチの船長に言われたことを思い出してみろよ」
フランキーは言った。
“現実から逃げるために自殺を選ぶような奴の命、いくつ懸けたっておれ達の敵にはならねェ”と。
モンキー・D・ルフィは言った。
“もしおれ達を捕まえたいのなら・・・お前の命がそれなりだってことを証明してみせろ!”と。
このまま食事を取らず、体力がないまま海に飛び込んだらその時こそ何もできない負け犬のまま死ぬだろう。
でも、彼がいうようにここで食事を取ったら・・・
「飯を食ってくれ、海兵ちゃん。おれ達と戦うのはそれからでいいだろう?」
船内では賑やかな晩餐が行われているのだろう。
ウソップとルフィの明るい笑い声が聞こえてくる。
彼らに一矢報いずして死んでいいのか?
それこそ海兵の名折れではないのか?
ならば───
「いただき・・・ます・・・!」
降る様な星空の下、脚を失くした女海兵は恥を捨ててフォークを手に取った。
これは海賊に屈したわけではない。
たとえ借りを作ったとしても、生きて、彼らに海兵としての意地を見せる方が大事だ。
彼の手料理はこれまで食べたことが無いほどの美味だったが、感嘆の言葉は漏らさないよう、ただ機械的にパスタとスープを胃に流し込んでいく。
その姿を“黒足”は微笑みながら見つめていた。