第10章 機械仕掛けの海賊はブルースを歌う(フランキー)
「飯を食えねェ理由は、それこそ星の数ほどあるもんだ」
サンジは胸ポケットから煙草を取り出すと、慣れた手つきで火をつける。
そして最初の一吸いのあと、ゆっくりと煙を吐きながら星空を見上げた。
「どんなに腹が減っても、そこに飯が無きゃ腹は膨れねェもんだ」
“ま、当たり前のことだよな”と言って、ニコリと笑う。
彼は知っている。
赤の他人に最後の食料を分け与え、生き延びるために自分の足を喰った男がいることを。
生きる、とはそういうことだ。
どんなに惨めでも、大切なものを失っても、腹に何かを溜めなければ人間はどんなに生きようという強い意志があったところで、心臓を動かすことすらできなくなる。
「海兵ちゃんは知っているだろうが、おれ達は2年間バラバラだった」
シャボンディ諸島で一味が離散した2年前。
バーソロミュー・くまによって飛ばされた“世界一最悪な島”でサンジを待っていたのは、ゼフと同等・・・いや、それ以上の出会いだった。
「君たちにとってはありがたくないことかもしれないが、おれ達はその間、それぞれの場所で修行に励んでいた」
「・・・その2年間、貴方達の足取りもつかめなかったのは海軍の落ち度よ」
「おれが言いたいのはそういうことじゃなくてさ」
サンジは肩をすくめながら、懐かしそうに海の向こうを見つめる。
「おれが2年間過ごした島で出会った奴が教えてくれたのは、“飯が食えることの奇跡”だった」
恩人との壮絶な過去が教えてくれた、“食べ物のありがたみ”。
決して食べ物を粗末にしてはいけない。
人はいつ食料を失うか分からないのだから。
だが、それも“生きていてこそ”のこと。
手料理を喜ばれることにはさんざん慣れているはずのサンジだが、カマバッカ王国で出会ったある人が簡単な料理を食べてくれた瞬間、彼は安堵と嬉しさのあまり涙を流した。
食べ物の恵みと、それを食べることができる奇跡。
あの島でサンジが流した涙は、彼をまたひとつ偉大なコックへと成長させていた。