第10章 機械仕掛けの海賊はブルースを歌う(フランキー)
「どこへ行くんだい?」
それは決して咎めるようなものではなく、むしろ甘い猫なで声だったのに、驚きと恐怖でクレイオの心臓が大きく跳ね上がる。
恐る恐る振り返ると、そこには銀色のトレーに夕食を乗せたサンジが立っていた。
「そっちはもう海に落ちるしかないぜ? ほら、海兵ちゃんの飯も持ってきたから食べなよ」
「・・・海賊が作ったものなど口に入れられるか!」
「まぁまぁ、そう言わずに」
他の仲間達はみんな食事中なのだろう。
サンジは懸命に逆毛を立てて威嚇する子猫のような海兵に甘い笑みを見せると、彼女の目の前に魚介類がたっぷりと入ったトマトパスタとコンソメスープ、そして色とりどりの野菜が光るサラダを置いた。
「飯を食わなけりゃ、逃げれるものも逃げれなくなるぜ?」
「・・・・・・・・・・・・」
クレイオは今日、何も口にしていない。
空腹は感じていなかったが、身体に力が入らないのは溺れたせいだけではないだろう。
「ほら、食べなよ」
一流のコックが作ったような、盛り付けの細部にまでこだわった料理を目にした瞬間、忘れていた食欲が一気に蘇った。
グゥーと大きな音を立てた腹に、クレイオが燃えるように赤面したのは言うまでもない。
するとサンジは笑うどころか、嬉しそうに目を細めながらクレイオの頭をポンポンと撫でた。
「やめろ! 絶対に食べるものか・・・」
「でも、君のお腹は食べたいって言っているけれどなァ」
サンジはそう言って、脚の無いクレイオの下半身に目を落とした。
腹の虫の鳴き声。
切断された脚。
それに何を思ったのか、特徴的な眉をほんの一瞬だけしかめたが、すぐに笑みを浮かべてクレイオと同じ目線の高さになるよう屈む。
「───飯、食えねェわけじゃねェよな? 食いたくねェだけだろ?」
それは先ほどの猫なで声とは違い、優しさの中にほんの少しだけ圧力が混じっていた。