第10章 機械仕掛けの海賊はブルースを歌う(フランキー)
“麦わらの海賊団”
“新世界”の海軍支部に配属されていたクレイオが彼らの名を初めて耳にしたのは、ウォーターセブン事件後だった。
“さ…3億ベリー?”
聞いた瞬間、船長の懸賞金の高さに驚愕した。
十代が中心の若い海賊団なのに、それほどの金額を懸けられているということは、将官クラスの海兵でないと太刀打ちできないということ。
だが、それも当然だ。
世界政府に対して宣戦布告をし、
バスターコールによる総攻撃をものともせず、
“司法の島”エニエス・ロビーを壊滅させた一味。
その後も騒ぎを起こし秩序を乱している麦わら海賊団だが、彼らと関わることで名を上げた海兵もいるのもまた事実だった。
「・・・・・・クソッ・・・」
なのに私は・・・
彼らに自分の無力さを突きつけられ、ただ惨めに床に這いつくばっているだけだ。
「クソッ・・・! あ、脚さえあれば・・・」
車椅子が無い状態で移動するには、腕の力だけで這っていかなければならない。
一味はあれから食事の時間だといってクレイオに見張りもつけずに食堂へ行ってしまった。
脱出するならば今がチャンスなのだが、衰えきっているこの体力では甲板に出るのがやっとだった。
「ハァッ・・・ハァッ・・・!」
それにしても、このサウザンドサニー号というのはどうしてこんなにも珍妙な造りをしているのだろう。
医療室をなんとか出られたものの、船内に水槽がある海賊船など聞いたことがない。
どれほどフザけた船大工が設計したかは知らないが、お遊び気分で航海できるほど“新世界”は甘くない。
いや・・・そんなことはどうでもいい。
停船しているうちに抜け出さなければいけない。
このまま出航されたら通報もできなくなるぞ。
クレイオは肘に擦り傷を作りながらも、とにかく船から降りることしか考えていなかった。
もう少しで甲板の柵に手が届きそうな、その時。