第10章 機械仕掛けの海賊はブルースを歌う(フランキー)
「おいおい、ウチの船長と自分を一緒にするんじゃねェ」
怒りの欠片すら見せないルフィの代わりに低い声を出したのはフランキー。
「勝機が無くても引けない戦いがある───アンタの言う通りだ。兄貴を助けるという絶対の覚悟がありゃ、世界最高戦力だって相手にできる」
もしあの時、“からくり島”まで飛ばされていなければ、自分もルフィと一緒に海軍本部と戦っていただろう。
兄を助けたいという船長と命をともにする、麦わらの一味なら誰もがその覚悟を決めることができた。
だが、運命は一味をバラバラにし、ルフィは一人で心と身体に大きな傷を負うこととなった。
「おれ達の目には、お前にそれだけの覚悟があるようには見えねェのよ」
フランキーが怒りを含んだ声を出したのは、クレイオが軽率に火拳の名を出したからというよりも、あの時のルフィの覚悟を軽んじたため。
先ほどまで騒がしかった他の仲間達も、壁際やテーブルなどそれぞれの場所から静かな目を二人に向けている。
「現実から逃げるために自殺を選ぶような奴の命、いくつ懸けたっておれ達の敵にはならねェ」
そのフランキーの言葉にルフィが麦わら帽子を被り直し、つばの下から不敵な笑みを見せた。
「今のお前は全然怖くねェなー。ゾロも寝ちまってるぐらいだし」
ルフィの言う通り、海賊狩りは海兵が船の中にいるというのに、先ほどから目を覚ます気配すらない。
「死にたきゃ勝手に死ね。おれ達は止めねェぞ」
ルフィの言葉は残酷だった。
「だけど、もしおれ達を捕まえたいのなら・・・お前の命がそれなりだってことを証明してみせろ!」
それは彼らの足元にも及ばないだろう、クレイオの戦闘力を言っているのではない。
彼らに“警戒心”を与えることができるような覚悟が、今の彼女にはないということ。
いつの間にか太陽が沈み始めていたのか、窓から差し込む夕日が船員の顔一つ一つを赤く染まっていく。
それは彼らの燃えるような覚悟を象徴しているようで、今のクレイオにはない絶対的な強さを示していた。