第10章 機械仕掛けの海賊はブルースを歌う(フランキー)
「聞くが、オネーチャンはおれ達を捕まえてどうする気なのよ」
「も、もちろん裁きを受けさせるために連行する」
「そりゃ威勢がいいな。だが、どうやって?」
「どうって・・・」
流石に言葉に詰まった。
車椅子もない今の自分は、身体を起こしているのがやっとだ。
見た目は一番弱そうなチョッパーですら捕まえることができないだろう。
するとフランキーはその大きな身体と比べれば不自然なほど小さな頭を横に傾げた。
「おれ達を捕まえようとするのはケッコウなことだ。でも、“勝機”がねェんじゃ、それはただの虚勢だということがわからねェか?」
「勝機が無くたって、時には引けない戦いもあるでしょう?! たとえば───」
空になったスープ皿を舐めている麦わら帽子の男。
幸運にも生きているようだが、2年前、本当に勝機があってマリンフォードの頂上戦争に乗り込んだとは思えない。
「火拳を助けることなどできないのに、海軍の最高戦力に挑むことだって同じじゃない」
するとルフィがピクリと動き、顔を上げた。
ほんの少しだけ空気が変わったことを感じ取ったのか、それまで居眠りしていたゾロのいびきが止まる。
数秒の間を置いて、ルフィが口を開いた。
「おれはあの時、敵がどれだけ強ェかなんて考えてなかった。そんなの関係なかったからな」
逸らそうとしても逸らすことができない、真っ直ぐな視線でクレイオを見つめながら微笑む。
いつも前を走っていた兄を捕まえるぐらいの戦力なんだ、強いのは当たり前のこと。
それから救えなかったことを悔やむ自分も、責める自分も、もういない。
「おれはただ、絶対にエースを助けると決めていたからあそこに行ったんだ」
必ず助けると決めていながら、目の前で殺された。
それでも、たった一人の兄を奪った海軍の前でそのことを口にできるのは、彼が人並み外れた精神力の持ち主だからだろう。