第10章 機械仕掛けの海賊はブルースを歌う(フランキー)
余裕であるということは、彼らにとって海軍・・・いや、私はまったくの脅威ではないということ。
特に麦わらや海賊狩りとは実力差があることは分かっているが、せめて“逃げよう”という素振りを見せてもいいではないか。
それなのに、黒足のサンジなどは鼻の下を伸ばしながらスープを差し出してくる。
「はーい、海兵ちゃん! 愛情たっぷりのスープを飲んで温まりなよ」
「海賊の作ったものなど口に入れられるか!」
軽く手を払ったつもりが、勢いあまって器をひっくり返してしまった。
派手な音を立てて床に飛び散る琥珀色のスープに、それまでニコニコしていた船長の表情が変わる。
「お前、せっかくサンジが作ったスープなのに、何てことしやがるんだ!」
“殺す”と言われた時ですらヘラヘラしていたルフィが今、怒りを露わにしていた。
その瞬間、ゾクリと背筋に冷たいものが走る。
「いらねェなら、そう言えばいいだろうが! そしたらおれが代わりに飲んでやったのに!!」
「ルフィ、よせ。海兵ちゃん、火傷はしていない?」
普段なら食べ物を粗末にされれば青筋を立てて怒るサンジだが、濡れてしまったクレイオの服をハンカチで拭いている。
クレイオを助けたフランキーや介護したチョッパーを始め、麦わらの一味の行動全てがクレイオの惨めさをいっそう煽った。
どうして私に警戒心を持たない?
どうして私に優しくする?
貴方達は海賊なのに・・・
「勘違いするなよ、海兵のネーチャン。おれ達があんたを警戒しねェのは、脚が無ェとかいう小さな理由じゃないのよ」
床に飛び散ったスープを舐めようとしている船長を殴るサンジ。
その後ろでフランキーがニヤリと笑った。
「あんたは今、おれ達の敵になる資格すらねェことに気づいていねェ」
翼を捥がれたカモメは、海賊船の中で目を背けていた事実を突きつけられようとしていた。