第10章 機械仕掛けの海賊はブルースを歌う(フランキー)
「低体温症になっていたんだ、安静にしてなきゃ」
“船医”とばかりに診察してくるのは、麦わら海賊団のペット、トニートニー・チョッパー。
「大丈夫かい? 何か温かいものでも作ってこようか?」
煙草を咥えながら目尻を下げているのは、手配書とは少し違うが恐らく“黒足”のサンジ。
「ヨホホホホ、それとも景気づけに一曲弾きましょうか?」
この動く白骨、歌手として大ブレイクした“ソウルキング”か。
確か、シャボンディ諸島で麦わらの一味の仲間だったことが確認されている。
「ちょっとあんた達うるさいわよ!」
バイオリンを弾きかけたブルックに怒声を浴びせているのは、“泥棒猫”ナミ。
「ふふふ、いいんじゃない? 音楽は気持ちを落ち着かせる効果があるというじゃない」
大人びた笑みを浮かべる、“悪魔の子”ニコ・ロビン。
「それよりアンタ、フランキーに感謝しろよな。あいつがいなければ今頃、溺死していたんだからな」
鼻の長い男・・・
海軍のデーターベースにはないが、やり取りからしてこの船に乗る海賊の一人に違いないだろう。
「“麦わらの一味”・・・!!」
やはり、さっきのは夢じゃなかったのか。
せっかく海に身を投げたのに、せっかく死ぬことができそうだったのに、よりにもよって海賊に助けられるなんて・・・
情けなくて、惨めで、涙が出てきそうだ。
そしてこの顔ぶれの中、“あの男”がいないわけがなかった。
「おいお前、大丈夫か?」
ベッドから少し離れた所に置かれた木椅子を跨ぐように逆向きに座り、背もたれの上に顎を乗せながらこちらに人懐っこい笑顔を見せている海賊。
その首に懸かる賞金の額には不釣り合いとさえ思うほど、ひょろひょろとした体躯をしている彼は、クレイオにとって一番許し難い男だった。
「麦わらの・・・ルフィ!」
“死んだ”とされていたはずの男が、シャボンディ諸島で確認されたという情報はこの軍艦島にも届いていた。
再び行方をくらましたと聞いていたのに、どういう巡りあわせかクレイオの目の前にいる。
「助かって良かったなー!!」
サンダルを履いた両足をぶらつかせながら、クレイオにはなぜそれが無いかなど知る由もなく、モンキー・D・ルフィは二ッと白い歯を見せていた。