第10章 機械仕掛けの海賊はブルースを歌う(フランキー)
「う・・・」
崖の上から海へ身を投げたというのに・・・
何故か自分は今、冷たい水の中ではなく柔らかい布団の上に横たわっている。
そういえば、気を失う直前に一瞬だけ誰かの顔が見えたような・・・
でもあれば夢だったかもしれない。
「あ、目を覚ましたか?」
ボンヤリとした頭に突き刺さる、甲高い声。
・・・子どもがいるのだろうか?
ここは海軍の基地なのに・・・?
「ここは・・・どこ・・・?」
「急に動いちゃ駄目だよ、ゆっくりゆっくり」
身体を起こしかけたクレイオの背中に添えられた手は、人間のそれにしては固すぎる。
まるで動物の蹄のようだ。
「・・・・・・・・・・・・」
バカバカしい、動物が話すワケないだろう。
それにしても、いったいここはどこだ・・・?
鈍い頭痛を覚えながら目を開けると、視界に飛び込んできた最初の人間・・・いや、“生物”にクレイオは悲鳴を上げた。
「ひぃ!」
蹄の間に挟んだ体温計を差し出してきていたのは、タヌキのような動物。
しかしクレイオの声に驚いたのか、ギクリと獣毛を逆立たせた。
「動物・・・?! 喋っ・・・人間の言葉を喋った?!」
「うん、顔色は大丈夫。意識もはっきりしてそうだな」
驚きのあまり言葉を失っているクレイオをよそに獣はテキパキと熱と脈拍を測ると、ニコリと笑って後ろにいる仲間に声をかけた。
「おーい、フランキー! この人、もう大丈夫だよ!」
フランキー・・・?
そういえばこの獣、どこかで・・・
徐々に意識がクリアになり、自分を取り囲んでいる人間達の姿がはっきりと見えてくる。
「おう、ネーちゃん! もう大丈夫そうだな!!」
それは、許し難い顔の数々だった。