第10章 機械仕掛けの海賊はブルースを歌う(フランキー)
頂上戦争から2年。
両脚を失ったクレイオは今、車椅子が無ければ自力でどこかへ行くことすらできない。
もちろん、海兵としてできることはほぼゼロに等しかった。
歴史に残る大戦での名誉負傷ということもあり除隊こそ免れているものの、内務しかできないクレイオは日に日に自分の存在価値を見失っていった。
何度も海兵を辞めようと思ったが、この年齢になって、こんな身体になって、どうやって生きていけばいいというのか。
実家に戻ったところで厄介者にしかならない。
どうせもう海兵として海賊と戦うことができないのならば・・・
───死んだ方がマシだ。
そう、いつしか死だけを求めるようになっていた。
無論、海軍はそんなクレイオの自殺願望を危惧し、療養という名目で精神病棟に入れた。
それでも彼女の死への思いは日に日に強まっていくばかり。
死んだ方がマシだ。
生きる目的も、生きている価値も、自分にはない。
そして看護師の目を盗んで病棟を抜け出し、車椅子で崖に向かったあの時。
頭上では海軍のシンボルであるカモメが飛んでいた。
空が飛べぬなら、そのカモメに生きている意味などない。
初めて海兵の制服に袖を通した日から今日までのことを思い返しながら、車椅子の車輪を一回転、一回転させながら崖の淵へ昇る。
強い太陽の日差し。
眼下には岸壁に打ち付ける白い波。
「ああ、綺麗・・・」
そんな穏やかな言葉を残して、ようやく“飛べた”と思ったのに・・・・・・