第10章 機械仕掛けの海賊はブルースを歌う(フランキー)
「───火拳!!!」
海兵を一歩も弟へと近づけさせまいと、強い炎が辺り一面を埋め尽くす。
熱い、なんてものじゃない。
クレイオら海兵達を目がけて飛んできた、炎が凝縮された“拳”。
それは常人にとって、隕石に直撃するような衝撃だった。
軽く数十メートルは吹き飛ばされたか、エースやルフィに剣を振り下ろすことすらかなわず、クレイオは折り重なった屍の上に叩きつけられる。
「うう・・・」
そこからの記憶は曖昧だった。
爆炎の匂い。
血肉の匂い。
毒ガスの匂い。
覚えているのは視覚でとらえたものよりも、嗅覚でとらえたもの。
視界は黒煙で閉ざされ、目には血しぶきが飛び、海兵のものか海賊のものか毒ガスで涙が溢れていたからだ。
地が割れんばかりの地震、おそらく大将の誰かと白ひげが対峙している。
正義の旗も、ドクロの旗も轟々と焼けている。
その中で何故か、麦わらの声だけは聞こえていた。
なに・・・?
悲痛な声を上げている・・・?
「む・・・ぎわ・・・ら・・・」
いや、なんだか空気がおかしい。
海賊達が何かを叫んでいる。
白ひげが死んだのか?
それともエースが死んだのだろうか?
なんとか状況を知ろうと上半身を起こした瞬間、クレイオに悲劇が襲い掛かった。
ヒュルヒュルと章榴弾が落ちてくるような音。
見上げると、上空から真っ赤な光の筋がこちらに向かって落ちてきていた。
それは先ほど自分を吹き飛ばした、エースの火拳の比ではない。
“本物”のマグマ。
「・・・大将・・・赤犬・・・!」
“マグマグの実”の火山弾による無差別攻撃。
それは逃げ惑う海賊の足を止めたが、海兵の命も容赦なく奪っていった。