第10章 機械仕掛けの海賊はブルースを歌う(フランキー)
空の飛べぬカモメに生きている意味などない。
崖の上から海を見下ろした時、胸がスーッと軽くなっていくのを感じた。
ああ、死ねるのだ、と───
どこまで記憶を遡ってみても、常に海兵に憧れていた自分。
この海に囲まれた世界で「正義」の二文字を背負い、海賊から人々を守る彼らのようになりたい。
「女が海兵になれるわけがない」
どんなに真剣な夢でも、それに対する周囲の反応は驚くほど厳しいものだった。
海軍の総人数に対して、女性の割合は5%にも満たない。
さらに佐官や将校まで上り詰めることができるのは天文学的確率に等しいだろう。
だからこそ憧れた。
入隊が叶った日はただただ嬉しくて。
黙り込む父親や泣き崩れる母親に背を向けながらも、その足取りは軽かった。
ヒナ少将やたしぎ大佐のように、女性ながらも認められる海兵になりたい。
そしていつか、つる中将の軍艦に乗りたい。
そう思って訓練に励んできた日々。
だが、人間には生まれ持った素質というものがあり、どんなに努力してもそれ以上のものは手に入れることができないのかもしれない。
自ら志願して“六式”の訓練に参加してみたけれど、何一つ習得できず。
“覇気”はその片鱗すらなく、“悪魔の実”だって自分のような無能な海兵にはそれを目にする機会さえなかった。
階級を上げていく同期とは対照的に、いつまでたっても二等兵どまりな自分。
賞金首の一人でも捕まえることができれば、少しは評価が変わるかもしれない。
どうしても“上”に行きたい。
どんな“手”を使ってでも。
そう思っていた矢先、クレイオにとって大きなチャンスが巡ってきた。