第10章 機械仕掛けの海賊はブルースを歌う(フランキー)
「・・・サイ・・・ボーグ・・・?」
およそ人間とは呼べないフランキーの姿には、見覚えがあるのだろうか。
意識がまだはっきりとしない中で口にしたのは、彼の異名。
否、もしかしたら、ロボットのような風貌の人間を見てそう呟いただけなのかもしれない。
彼女の視線がフランキーの青い髪、割れたアゴ、武器を仕込んだ肩と順番に移っていく。
「大丈夫か、オネーチャン?」
「・・・・・・・・・・・・」
そして最後に星印のタトゥーがチャームポイントの前腕を目にした瞬間、女は表情を変えた。
「“鉄人”フランキー・・・!!」
強い力でフランキーを押しどけると、髪から水を滴らせながら腕の力だけで上半身を引きずらせながら離れる。
そして、隣にいるウソップにも気づき、両目を大きく吊り上げた。
「海賊・・・何故、貴様らがここに───」
「おいおい、無理すんな」
海兵であれば、海賊を前にしたら敵意をむき出しにするのは当たり前のことだろう。
しかし、彼女からはそれ以上の何かを感じた。
敵意よりも遥かに強い、“憎悪”のようなものが。
「麦わらの一味・・・殺す・・・殺してやる!!!」
しかし、どれほどの憎悪を向けようと、先ほどまで気を失っていた人間の拳が、改造人間にダメージを与えられるわけがない。
鋼鉄に鈍い音がしただけで、彼女はそのまま後ろに倒れてしまった。
「オネーチャン、大丈夫か?!」
「殺す・・・殺す・・・・・・」
崖から飛び降りた脚の無い女は、フランキーに憎しみの目を向けたまま、うわ言のように物騒な言葉を繰り返していた。
だが、憎しみが意識を繋ぎとめておくには限界があったようだ。
彼女は二人の前で再び気を失っていった。