第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
ゾロとチョッパーは一旦、クレイオを一人残し、船に戻ることにした。
「じゃあ、お前の弟、おれ達の船に連れて行くからな」
チョッパーが声をかけても、ベッドの脚を背もたれにして座るクレイオは頷くのが精一杯だった。
まるで糸が切れた人形のように力なく崩れている彼女を、一人にしていいものかどうか心配だ。
しかし、今の精神状態では、弟の死体と一緒にさせておかない方がいいだろう。
かといって、これからチョッパーが弟の身体に行おうとしていることを目にしたら、気が狂ってしまうかもしれない。
タクシーで港町へ戻る道すがら、チョッパーはゾロに向かって悔しそうに呟いた。
「詳しく調べてみなきゃまだ分からないけれど・・・」
やせ細り方、吐血の量・・・それを見れば、なんとなく想像がつく。
「多分、あの子・・・まったく治療を受けていなかったよ」
「なんだって・・・?」
「塵肺という病気は、その多くが肺に腫瘍を作るんだ。ものすごい苦しみだったと思うんだけど、あの子はそれを感じる気力も体力もないぐらい衰弱してた・・・」
“私には守りたい人がいる”
“塵肺って知っている? 炭鉱に生きる人間ならば、覚悟しなければいけない病気よ”
「そんなはずはねェ・・・クレイオは、弟が治療を受けさせてもらっているって・・・」
“私が身体を売ることを条件に、弟に治療を受けさせてくれると約束してくれた。私にお金を稼ぐことができるのは、この方法しかないだろうって”
「でも、もし治療をちゃんと受けていたら、あんな状態になるはずはないんだ!」
“諦めることはできない。もしかしたら・・・いつか治してくれる名医に出会えるかもしれない”
弟の病気が治ることを祈り、娼婦となったクレイオ。
それすらも“無駄”だったというのか。
チョッパーもゾロもそれ以上の言葉を口にすることができぬまま、タクシーはメリー号に到着した。