第15章 CROCUS
駅のホーム、ビルの看板、雑誌等々。
目に付く場所に一斉に張り巡らされたポスター。
白い背景、金髪の男性と赤いドレスの女のキスシーン。
パッと人目を惹く美しさを漂わせたポスター。
まさか!と、見た瞬間思った。
ポスターの文字を見たら確信に変わった。
オーナーとだ。
ただのキスシーンじゃない。
ただのポスターじゃない。
あの言葉は、に向けたラブレターだ。
「あんな事普通にやってのける相手に敵うわけねぇよな・・」
「はぁ?・・もしかして、あの別嬪さんがキッドの想い人!?」
頷く俺に、高嶺の花過ぎるだろー!?と腹を抱えて笑いやがった。
そんなのわかってるよッ。
最初は、こんなに想う事は無かった。
何故だろう、いつの間にか目で追うようになり。
その心を俺に向けて欲しいと思う様になったのは。
「まぁ、諦めるんだな。
良い女紹介してやるからさッ」
「だから!出来てりゃ苦労はしねぇんだってよッ!!」
キラーに軽く蹴りを一発入れてやる。
こんなヤツに相談した俺がバカだった。
「おっと、客だ客ッ!」
小声で耳打ちしたキラーは、さっといつもの営業モードに入る。
この顔に騙されて、足繁く通う女は星の数程いる。
俺は酒を補充しようと足元の箱を漁る事に専念する。
今は、接客の気分ではない。
「こんばんわ、何処かで見た様な・・
あっ、ナンパではないですので待ち合わせでしょうか?」
キョロキョロしていたのか、そう声を掛けたキラー。
「お1人でしたら、カウンターへどうぞ」
見なくてもキラーの満遍の笑みが思い浮かぶ。
馬鹿丁寧な接客は、キラー好みの女が来た場合が多い。
はぁ・・・
今日何回目になるかわからねぇ、ため息を吐き出し俺は重い腰を上げた。
『あっ!良かった、いたッ!!』
「えっ?・・・えーーーーッッ!!?
お前、何でここにいるんだよッ!!」
『キッドが奢るから来いって言ってくれたんじゃない』
そう笑って応えるのは、今日何度もポスターで見ただった。