第5章 HYACINTH
「へーっ、花が入ってたのかッ」
『今日、開催されるイベントで使う生花なんです』
良かった、冷気システムは切れていたけど中はまだヒンヤリと冷たい。
大雑把に確認しただけだが、大半は無事の様だ。
事故の衝撃で倒れたバケツの花は折れてしまい使えそうにないな。
「これ、どーやって運ぶの?」
『搬送車を手配します』
荷台に乗り込み、見渡す男。
構っている暇は無く、私は電話を掛ける。
『ちょ、ちょっと!何してるんですか!?』
花が入ったバケツを移動させている男。
「急いでるんだろ?
入り口にまとめた方が搬送は手早く済むようにだ」
『ご親切にありがとうございます。
ですが、お手を煩わせる
「お姉ぇちゃんは、これにサインでもしといてくれ」
そう言って書類を渡す男。
「簡単に言うとトラックの中身を運び出す為の書類だわ、そこに社名と氏名、連絡先だったか、書いといてくれれば後は適当にやっとくからさ〜」
運び出すだけの為に書類が必要だなのて、思いもしなかった。
私は、早速書類にペンを走らせた。
『何から何まで無知で済みません』
「あららぁ〜
お姉ぇちゃん、意外に素直なんだな」
『・・・意外と言う言葉は心外です。
知らなかった事は知らなかったと認めるべきだと私は思っています。
それに、お姉ちゃんってのも止めてもらえませんか?』
バケツの移動が終わったのか、荷台から飛び降りた男。
「気を悪くしたか?
でもな、名前知らないからしょうがないでしょ」
スッと書類を差し出す。
『名前は書きました。
確認してもらえますか?』
「へーっ、ちゃんか」
・・・苗字も書いてあるはずなのに何故、下の名前で呼ぶの?
この男の喋り方に緩さを感じるせいか、テキパキと動かなきゃいけないこの状況で何故か肩の力が抜けてしまう。
「俺は、クザン。よろしくなッ」
『・・・クザン、さん』
そう呼ぶと笑って私の頭を撫でるクザン。