第25章 NIGELLA
「飲め」
ドフラミンゴに促され、私はグラスに口を付けた。
ウォッカとライムの香りが口いっぱいに広がる。
『おいしい・・』
「ここに来たのはキッドの頼みだ。
俺はキッドの頼みを無下に出来ねぇ・・。
キッドの・・あいつの気持ちを汲んでくれとは言わねぇが察して欲しい」
眉にシワを寄せ話すドフラミンゴの姿は新鮮だった。
何でも卒なくこなすのがドフラミンゴだと思っていた。
そんなに逆らえないのか?
それとも私に気を使っているのか?
『・・少し、気分が落ち着きました』
どっちでも、新たな姿を見れて私は嬉しかった。
「・・ゾロを寄越した理由だが
『いいの、もう。
私、その事にはもう関心がないから』
どんなに考えても過去は取り戻せない。
ドフラミンゴから教わった事。
私がするべき事は、前に進むため考えなきゃいけない。
この1歩をどう進むべきだろうか・・
『私、混乱してたの・・
ゾロに言われて、正直思ってもみない事で・・焦っちゃった』
「・・・」
『でも、ゾロの言った通りで・・
でも、私の想いは確かにあるのに、あるはずなのに・・
この気持ち持て余して、ドフラミンゴさんにあたってしまって・・
ごめんなさい』
窓から見える夜景を見つめたまま、私はポツポツと話した。
詳しくは言えないけど、戸惑ったこの気持ちだけでも知って欲しい、聞いて欲しいと思ったから。
「・・甘えろ」
『えっ・・?』
「が俺に甘えてぇんなら甘えろって言ったんだ。
今更、気を使うな。
は、俺のお姫さんだろ?」
ジッとドフラミンゴの顔を見つめた。
聞こえた言葉を頭が理解した瞬間、心が悲鳴を上げた。
『ーーッッ!?』
瞳から一筋の雫が溢れ出す。
泣いていると気付いた時には、ドフラミンゴの胸の中にいた。
『ド、フラミンゴっっ、さぁん・・』
「やっと泣いたか。
お姫さんのクセに変な所は頑固だなッ」
知ってたの?
それも知ってたの?
私が泣けてないって。
ゾロのあの現場を目撃してから私は涙を流せてないって。
「泣き虫でいろよ、お姫さん」
言葉にならない。
私は、ドフラミンゴの胸に顔を押し付け嗚咽を漏らした。
他には聞こえない。
ドフラミンゴにだけ聞こえる、私の心の悲鳴を優しく抱き留めてくれた。