第18章 AGROSTEMMA
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ピーピーピー。
耳元で聞こえる機械音。
「クーパー」
「鉗子」
「鉤」
この声は・・・
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瞼が重かった。
身体も重かった。
だけど、あの息苦しい胸の痛みは今は無い。
見えるのは白い天井。
視線を動かせば周りには沢山の機械。
口を覆っていた酸素マスクをどうにか右手で取る。
篭っていた呼吸がひんやりとした室内の空気でやっと楽になった。
動かしにくい左手を見る。
怪我でもしたのかなと思ったらそこには、ベッドに乗る頭。
誰かが私の手を握っていた。
『・・・あ、のッ・・・・・』
喉がカラカラだ。
随分、水分を摂っていない。
カサつく唇を無理に動かしながら、私は再度呼び掛けた。
ガバッと勢い良く上がる顔。
『・・・ロー、先生?』
何で?!
どうしてここに??
飛び起きたロー先生は、素早く機械に視線を走らせる。
そして、ナースコールを押し看護師を呼んだ。
「記憶はあるか?」
記憶?
『・・社長と車に乗ってて、それで確か・・・』
「大型トレーラーが車の側面に突っ込んできたそうだ。
車が炎上する前にクロコダイルが助け出したと聞いている」
あぁ、あの衝撃は事故の・・・
段々記憶が合致していく。
『・・社長は無事ですか?』
「・・頭を4針と左腕の骨折。
調べたが他に異常は見られないが頭を打ってる。
念のため1泊入院してもらった」
『じゃ、早く会社の方に連絡を』
「済ませている。心配せずもう少し寝てろ。
・・・唇が乾燥しているな」
そっと私の唇に指を落とす。
「悪いがまだ水分は許可出来ねぇ。
・・これで我慢してくれ」
突然のキス。
軽く合わさった唇に舌を這わせ、口内を湿らせていく。
離れた途端、ノックの後に入ってきた看護師。
ロー先生は何食わぬ顔で色々指示を出し、部屋を出て行った。
何故ロー先生がここにいるのか
私の入院はどれぐらいだろうか
あのキスは何だったのか
まだ、聞きたい事が沢山あったが聞けなかった。
ローに言われるまま私はまた、ゆっくり瞳を閉じた。