第16章 今度は君の手を引いて。(白布賢二郎)
「ちょ…っと、待て。…!」
「静かにして、誰かに見つかっちゃうでしょ」
男子寮の玄関で会ったと白布は会話もそこそこに歩き出し、着いた場所は女子寮の裏口。
は強引に中に引き入れようとするも、白布はそれを必死に阻止しようとする。
「入るのはマズイだろ…っ」
「バレなきゃ大丈夫」
中学から知っている彼女だが、こんなに強引でリスクを冒すタイプだっただろうか?
「賢ちゃんに大事な話があるから、来て」
「…………」
真剣な顔でそんな事を言われてしまっては。
白布は観念したように小さく溜め息をついて頷いた。
「…わかったよ」
運良く誰にも見つからずに辿り着いたの部屋。
初めて入る、部屋。
白鳥沢では男子寮、女子寮共に異性の立ち入りは禁止されている。
校則を破ろうとしている後ろめたさみたいなものはの顔からは微塵も感じられなくて、そんな彼女を見て白布も腹を括った。
一人部屋のの部屋は綺麗に整頓されていて、女の子の部屋と言うには物が少ない。
だが、微かに香る甘い匂い。
それだけでここが異性の部屋なのだと白布に思わせるには十分だった。
「…話ってなんだよ」
何処か落ち着かないこの空間に急かされて白布はそうそうに本題を切り出した。
その直後、
「……!?、…!?」
部屋と同じ甘い香りが強くなって、温かな体温と柔らかい感触が白布を包み込んだ。
「………?」
突然抱き締められた白布は、その柔らかな体を引き離す事も抱き返す事も出来ないまま小さく彼女の名前を呼んだ。
「………賢ちゃん、私とした約束…気にしてる?」
「……!」
いつもそうだ。
昔から。
どんなにポーカーフェイスで普段通りを装っても、は白布の変化に気付いてしまう。