第16章 今度は君の手を引いて。(白布賢二郎)
春高代表決定戦。
白鳥沢高校対烏野高校。
5セットに及ぶ激しい戦いは、烏野高校に軍配が上がった。
今の烏野に優勝の喜びを知る者がいないのと同時に、今の白鳥沢にもまた敗北した時のやり過ごし方を知る者もいなかった。
『負けた』直後。
理解できなかった現状も、喜びを剥き出しにしている烏野と、スタンド席にいるマネージャーのの泣き顔をみたらじわじわと締め付けられる様な感情が白布の胸に沸き上がってきた。
東京に、オレンジコートに連れていくと約束した。
それが今日、叶わないものになってしまった。
泣いていると悟られたくなくて俯いた白布の脳裏に、悲しげなの顔が浮かぶ。
ロッカールームでは誰が何を喋っていたかなんて全く覚えていなかった。
自分のどのプレーがいけなかったのか。
自分のどのミスが敗北に繋がったのか。
自分が、11番のプレッシャーにやられていなければ結果は変わっていたのだろうか。
「白布、行くぞ」
「…………」
目を赤くした瀬見がロッカーの前に立ち尽くしていた白布の背中に声を掛ける。
先に扉へ向かった瀬見の背中を見て思う。
もしも瀬見がセッターとして入っていたら、結果は変わっていたのだろうか。
そう思って白布は激しく後悔をする。
こんな考えが浮かぶようじゃダメだ。
自分の力を信じていないヤツが上に行けるわけないんだ。
白鳥沢のメンバーはその後学校へと戻りミーティングを行う。
鷲匠先生の言葉を胸に頭に刻もうと、誰もが真剣な眼差しで耳を傾けていた。
チラリと白布はの顔を伺う。
泣き腫らした顔だったがしっかりと視線は鷲匠先生へと向けていた。
ミーティングも、その日の全てが終わった後。
白布は男子寮の玄関に来ていた。
手に握り締めているスマホにはアプリのメッセージ。
『下にいるから降りてきて』
こんな日はそっとしておいて欲しい。
けど、そのメッセージの相手がならわけが違う。
謝るのが正解か、強がって見せるのが正解か。
顔を合わせて何を喋れば良いのかまとまらないまま、白布は部屋を出てしまったのだ。