第14章 言葉を吐息にのせて。(菅原孝支)
きっと困らせた。
じゃあ、今から冗談だって言うのか?
今冗談にしたら…もう二度と俺の気持ちは伝わらないぞ。
恐る恐る先生の顔を見る。
「、先生…?」
「えっ…?!//あ、えっとね…!えと…//」
予想していたのは先生の困った笑顔だったのに…。
今の先生は、どうして…。
「どうして、先生そんな顔赤いの…?」
「…………っ、」
一歩。
先生に歩み寄る。
「…菅原くんっ!」
触れようと手を伸ばした瞬間、誰もいない体育館に先生の声が響いた。
先生の肩まで後数センチの所で俺は手を止める。
「わ、私は…実習生で…!//まだ1ヶ月実習期間残ってるし、だから、生徒との、恋愛は……///」
真っ赤な顔して、目を泳がせて、そんな反論の仕方じゃ…俺、期待しちゃうじゃん…。
「俺さ…先生が他のヤツ構ってるの見ると何かこう、すげーモヤモヤするんです」
「す、菅原くん…でも、私…っ」
「後1ヶ月も…そんなの黙って見てられない」
一歩ずつ先生に近付く度に先生も後ろへ下がる。
だけどそんなやり取りは長くは続かず、先生の背中は壁にピタリと張り付いた。
「ダメ…菅原くん、触れられたら…私…っ!」
追い詰めた壁際でもう一度先生に手を伸ばす。
少し震える先生の頬に手を添えた。
「先生…さっきより、顔赤いけど……」
「ダメって、言ったのに……っ」
「…、先生?」
見つめ返された瞳に一瞬怯んだ。
もう一度口を開こうとした時、柔らかな感触が俺を包み込んだ。
「触れられたら…私の気持ちも抑えられなくなるでしょう……?」
え………
俺、今…先生に抱き締められてる…?
「…菅原くんの事ちゃんと見てるんだから」
俺のジャージを掴んで先生は額を俺の胸に寄せる。
これ…、俺腕回しても良いのかな…。
「皆のフォローしたり、悩んでる子にアドバイスしたり…細かく皆の事ちゃんと見てるんだって思った。そんな菅原くんを見てたから…私は……」
先生の小さな背中に迷っていた腕を回す。
「私は…の先、聞いて良いですか……?」
前髪同士がぶつかりそうな距離。
艶やかな先生の黒い髪が俺の言葉に反応して揺れる。