第13章 君と始める恋愛物語。(岩泉一)
目的地も決まらぬまま校舎内を歩き続けて、漸く岩泉が足を止めたのは今はあまり使われていない音楽室。
誰かが鍵を掛け忘れたのか、手を掛けると扉簡単に開いた。
新しく別の場所に音楽室が出来た為、この場所は旧音楽室として今は使われていない楽器等がしまわれている。
「いわ、いずみ…くん……?」
岩泉のペースで歩いて来たためはずっと小走り状態。
足を止めた今は肩で息をしている。
握られている手首は、じんわりと熱くなっていた。
「お前と及川見てると腹立ってしょうがねぇよ」
「え……?」
旧音楽室の扉を閉めた後、岩泉は絞り出すように言った。
付き合うならさっさと付き合ってくれれば良いのに。
そうやって無理やりにでも自分を納得させて欲しいのに。
「なんで及川くん…?」
「それはお前が……っ、」
アイツにばかり触れるから。
そう言い掛けてやめた。
そんな格好悪い事、言えるはずない。
言わなきゃいけないのはそんな事じゃなくて。
「…………!い、岩泉…くん…?」
岩泉は握ったままの手を引いて小さな体をその腕に閉じ込めた。
「………あっ…んん…!」
同意も求めずに奪った唇。
抉じ開けるように舌を差し込み、の舌を絡めとる。
「ま、待って…!」
「嫌だ」
壁に彼女の背を押し付け、細い手首を頭上でまとめた。
喋る隙を与えたくない。
そう言わんばかりに岩泉は激しく唇を貪った。
「んっ…!ん、ふぅ…っ」
「……、」
不意に名前を呼ばれ、はぎゅっと閉じていた目を開ける。
見えたのは、苦しそうに顔を歪める岩泉の顔だった。
「岩泉、くん……」
「……見んな」
眉を寄せてそう言うと、岩泉はの首筋に唇を寄せた。
情けないこんな顔をこれ以上見られたくない。
「ひゃ、あ…っ」
ゾクリとした感覚が背中を走る。
岩泉の温かな舌の感覚を感じての頬には熱が集まった。
勘違いなのだと、伝えなければ。
自分と及川の間には何もないのだと。