第13章 君と始める恋愛物語。(岩泉一)
自分といるよりも及川といる方が絵になる。
誰が見たってそう思うに決まってる。
バレー部の主将とそれを支えるマネージャー。
それだけで恋愛物語が始まりそうだ。
「チッ……」
並んで笑い合う及川と、マネージャーであるを見て岩泉の眉間にいつもよりも深く皺が刻まれた。
3年間ずっと想ってきた彼女。
ところが最近になって女に振られたと言う及川が急に彼女に興味を示しだした。
「今日も可愛いね、ちゃん……あたっ!?」
自分じゃ到底言えそうもない台詞をサラリと言ってみせた及川の後頭部目掛けて岩泉は思い切りバレーボールを投げた。
「ちょっと岩ちゃん!?何すんのさ!」
「ウルセェ、ヘラヘラしているオメーが悪い」
「理不尽!」
そんなやりとりを見てはクスクスと笑っていた。
「岩泉くん、突き指してるんだからそんな風に投げたら悪化しちゃうよ」
「こんくらいで悪化しねーよ」
「ちょっとちゃん!注意すべきはそこじゃありません!俺に当てないでって言わなきゃ!」
「及川くんこそ、あれくらい平気でしょ?」
そう言うとはボールが当たった及川の後頭部に手を伸ばしその髪にそっと触れた。
「…………」
優しく撫でるその手付きを見ていられなくて岩泉は床へと視線を逸らした。
お前の触れる相手が、俺なら良いのに。
思うだけで口には出来ない願望。
床を穴が空きそうな程睨み付けながら奥歯を噛み締める。
「ちゃんの手って小さいよね」
「え?あぁ、そりゃ皆に比べたら…女の子としてなら普通じゃないかな?」
「ね、比べてみようよ」
の返事を待たずに及川はの手を取り自分の手と重ね合わせる。
「……っ、岩泉、くん?」
考えるより先に、体が動いた。
「……ベタベタ触らせてんじゃねーよ」
一瞬重なった二人の手を岩泉が断ち切った。
そしての手首を掴み、体育館を出て行った。
一人残された及川の口元は満足気に笑っていた。
「…ごゆっくり~」
まるでこの状況を待っていたかのように。