第1章 信じることのできない出会い
そう、彼が指さしたのはいわゆるラブホテル。
ここらにはほかに泊まるところもないだろう。
「嫌なの?」
『当たり前です!』
‘霜月隼’はいたって普通のように、当たり前のように私に問いかける。
「でも他に泊まるところもないでしょう?君は家が遠いそうだし。それにそんな薄着じゃ風邪ひくのも時間の問題だよね。」
『さっき会ったばかりの人とラブホテルに入るよりはましです。』
…でもどうしよう。彼の言う通り他に泊まるところなんて言うものはない。
だからと言ってこの知らない人とラブホテルに入るのも…身が引ける。
だが今この現状、頼れるのはこの人しかいない。
「安心してよ。ラブホテルに入ったからって君に手を出したりなんてことはしない。これでも心配してるんだよ、君のこと。」
『…私あなたに心配されるようなことしてましたか?』
そう私が言うと、‘霜月隼’は一度キョトン、とした後に辺りに響く透き通る声で静かに笑った。
「ふふ、さっき男たちに絡まれていたのは誰だったかな?」
『あっ…』
あぁ、そうだった。
絡まれていた私を助けた張本人がこの人だった。
「このままいても風邪ひくだけだし、とりあえず動かないとね。」
…まあ、この人がいなかったら今頃どうなってたかわからないし、とりあえずついていくことにする。
にしても、‘霜月隼’とは誰だろうか。
さっきのクルマの男とは知り合いなのだろうか。
でもそしたら助ける意味がわからない。
あれこれ考えていると突然、私のおなかが盛大に鳴ってしまった。
‘霜月隼’はこちらに振り向き、暖かい笑顔で微笑みながら
「夜ご飯食べてない?実は僕もなんだ。じゃあ、ホテル行く前に食事でもしようか。ここらではちょっと知られてないけど美味しいレストランがあるんだ。」
と、私に話した。
私はお腹の音が彼に聞かれてしまったことに恥ずかしさを感じながらも、背中を追ってついていくのだった。