第1章 If 宮野真守 is ツンデレ……
気付けば、もう辺りは暗くなり始めていた。私は急いで夕飯の準備に取り掛かる。
今日はビーフシチュー。
お母さんが何かあると必ず作ってくれた、私にとってはすごく縁起のいい食べ物。これを愛する人と一緒に食べることが小さい頃からの夢だった。
…………だから、私はビーフシチューを作るのは初めてだ。初めては、好きな人の為に作りたかったから。
なんて、私の想いに彼が気付くはずもない。このことは、誰にも言ったことがないのだから。
特別な日に作る、特別な料理。
『っ…………』
つい涙が零れそうになった。
だって、こんなにも虚しいことが他にあるだろうか。
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ビーフシチューを作り終わると、ちょうどまもが帰ってきた。
『おかえりなさい』
「ん………」
彼がどこか気まずそうに見えるのは、きっと気のせいではない。今日だけは、こんな雰囲気にしたくなかった。
『ご飯出来てるから、早く食べよ?』
「あ、ああ………そう、だな」
どこかぎこちなく答えるまも。
彼は優しい人だ。
私が今朝泣いていたことを気にしてくれている。でも、私はその優しさに気づかないふりをした。
『今日はビーフシチューなんだ〜』
特別な人と特別な日に食べる、私の初めての料理。
『確か、初めて作るよね』
美味しいかな、って不安に思いながら彼が食べるのを見て、美味しいよ、って彼が笑って言う。こんな甘い夢を見ていた。
『美味しく出来てるかな』
愛情をいっぱい込めたんだから、きっと…………
「スズ」
不意に、彼に抱きしめられた。
私は鍋を混ぜていたおたまを持つ手を止める。
「ごめん………ごめんな………」
彼が私の肩に顔を押し当て、消えそうな声で何度も謝った。