第2章 故郷の色【イゾウ】
助けられた後に路地裏を抜け出すと、お店に向かう間にすれ違う男達があたしの格好を見て冷やかしてくる。でもそんなの全然気にならなかった。あたしの意識は全然別のことを考えていたから。
キモノ久しぶりに見たなぁ。
そう思いながら、お店の上にある自分の部屋へと階段を上がっていく。部屋に入ると、真っ先にクローゼットの扉を開けた。中には仕事用のドレスやら衣装やらが大量に収納されているけれど、その片隅に 桐とかいう種類の木で作られた箪笥が置かれていた。
そっと引き出しを開けると、たとう紙に包まれたキモノがいくつも眠っている。そっと紙を開いてそこにある鮮やかな柄のキモノに視線を落とす。
『やっぱり懐かしく思うもんなんだね』
独り言が零れ落ちた。キモノを見ると、甘い思い出も苦い思い出もよみがえってくるようで滅多なことではこの箪笥には手を触れないんだけど、実際どこかで目にすると気になって見てしまう自分がいる。
どこか感傷的な気持ちで見つめていたら、部屋のドアがノックもなしにすごい勢いで開けられて身体がビクンと震えた。
「ねぇねぇ!大ニュース!」
『……あのさ、ノックって知ってる?』
「ゴメンゴメン、早く話したくて……」
言いかけた相手の言葉が、あたしの服を見て止まった。
「何それ?強姦プレイ?」
あ、着替えんの忘れてた。
『プレイっていうか…未遂事件っていうか…』
「は?」
『未遂な時点でプレイだったって思う事にした。』
「……大丈夫?」
『どうって事ない。バカに絡まれただけよ』
「ヒイロが大丈夫ならいいけど…」
心配されるのってなんだか居心地が悪いから、早々に話題を変えてしまいたい。
『で?大ニュースって何よ?』
「あ、あっ!そうなの!聞いて!ママと白ひげって、古い知り合いらしいのよ。」
『ふーん』
「でね、今日白ひげと隊長達でうち貸切りにして宴会するらしいの!」
『へぇー』
「もう、ヒイロってば反応薄い!全然興味ない癖にすぐにお客さん夢中にさせちゃうんだからぁー」
口を尖らせる同僚を横目にキモノを片付け始める。
「あれ?ヒイロ、キモノなんて持ってるんだ。」
『これはあたしの母親のよ。母親の故郷が、…ワノクニだったの』