第2章 故郷の色【イゾウ】
「珍しいな、オヤジの指示か?」
「店のママが、是非うちの店で宴会どうぞって来たんだと。そん時のオヤジがやたらと上機嫌だったらしくて、ありゃ昔の女なんじゃねえかってうちの隊員が盛り上がってたぞ」
「オヤジはタダ酒呑めるなら誰に誘われたって上機嫌だよい」
「違いねぇな」
甲板で話しているとパタパタと数人の足音が近付いて来た。
そちらの方を見ると眉を八の字に寄せて何とも困り顔のナース達の集団がやって来るところだった。
「もうっ、マルコ隊長!船長にちゃんと言ってあげて。私たちが言っても全然聞いてくれないんだから」
「お酒飲んじゃいけないなんて言ってないのよ。飲みすぎないでって言ってるだけなの」
「心配だわ。やっぱり私ついて行こうかしら?」
「そうね、それが一番安心ね。ついて行きましょう」
オヤジ専属のナース達が勝手に宴への参加を決め始めるのを横目に、マルコは頭を掻きながら
「俺が言ったって聞いた試しがねえだろ?」
と微妙な表情を浮かべていた。最近はオヤジの体調もすこぶる安定しているし、大の大人にそこまで世話を焼かなくても良いだろうと思うがそれを言った後のナース達のご機嫌を思うとここは大人しくしておくのが得策だろう。話を振られたマルコも、空気読めと言うようなオーラを放っていた。
にも関わらず、
「「ガキじゃあるまいし、何処まで世話焼いてんだよ」」
なんて、声をハモらせて発言する男2人。
次の瞬間、世界に名を轟かす白ひげ海賊団の2番隊隊長と4番隊隊長はナース達から大目玉を食らう事となる。
騒ぐナース達をどうにかなだめて部屋に戻ると16番隊の部下から細々とした報告を受けた。どうやら、暫くはこの島でゆっくり過ごせそうだ。
自分が留守の間もきちんと役割を果たしてくれた部下に
「ご苦労さん」
と労いの言葉を掛けて話を終えると、部屋を出て行く直前に
「あ!」
と、急に部下がこちらを振り向いた。
「どうした?まだ何かあったか?」
「そう言えば、隊長達が今夜宴会する店えらく評判良いらしいですね!結構イイ女揃えてるらしいですよ。帰ったらどんなだったか教えて下さいよ!絶対ですからね」
そう言って部屋を出て行った。
「……イイ女ねぇ…」
独り言が空気にとける瞬間、あの仔猫のアーモンド型の瞳が脳裏に浮かんで消えた。