第2章 故郷の色【イゾウ】
色街は建物が雑然と建ち並んでいるせいで、路地裏には死角になる場所も多いし昼間でも薄暗い場所もある。
こんな所はさっさと通ってお店に帰って一服しよう、そう思って店への道を急ぐ。
角を曲がった時だった、その先に2、3人の男がたむろしているのが見えた。
(…まずいかな?)
そうは思ったものの、自分はただ道を通っているだけ。
悪い事は何もしていないわけだし、さらっと目立たないように通ってしまえばいい と考え直して
歩みを止め無かった。
なるべく距離をとってその男達の側を通り抜けようとした時、
「あれー?」
能天気そうな声が聞こえ、それとは全くかけ離れたねっとりとした視線が自分に絡むのを感じた。
「なぁ、どの店の女?」
心の中でため息をついて声をかけてきた男を見つめた。
(ダメだ、絵に描いたようなチンピラだ。)
あたしは諦めて口を開いた。
『…カサブランカ』
店の名前を出した瞬間、男達が目配せしたのがわかった。
面倒な流れになってきたな…
「へぇ〜…高級店の従業員さんなんだ」
「俺たち、カサブランカみたいな店には中々行けなくてさぁ」
「やっぱりいい女揃えてんだな」
好き勝手にほざきながら距離を詰めてくる。
『…で?何か用?』
わかりきった展開ではあるけれど、一応聞いてみた。
「ここで会ったのも何かの縁だろ?」
「ちょっと遊ぼうや」
「大丈夫、ここあんまり人通んねぇから」
大丈夫ってそりゃお前らの都合でしょ?
何が悲しくて、1ベリーの得にもならないコトあんた達としなきゃならないわけ?
そんな事しか考えられないからいつまでたってもチンピラ止まりなのよ。
言いたい事は幾らでも浮かんでくるけれど、生憎あたしはこいつらをボコボコに出来るほど強くも無ければ
逃げ足が速いわけでもない。
こういう奴らは自分の欲求が満たされないと暴力的になったり、店にどうしようもない嫌がらせをしてくる事が多い。
不本意ではあるけれど、あたしが我慢してこの場が収まるならそれに越した事はない。
三人の男たちの下卑た表情を見ながら覚悟を決める。
『ここで遊ぶの?』