第1章 月夜【レイリー】
少しの沈黙の後、レイさんは口を開いた。
「……ニレ、そろそろお別れの時間だ」
『え⁈』
スッとわたしから離れてドアへと向かって行く彼に、何て言えば良いのだろう。
お付き合いしている人がありながら、それでもレイさんを欲しがる自分は欲張りなのだろうか?
それでも、欲張りでも不埒だとしても言わずにはいられなかった。
『レイさん!…もう、会えないの?』
こんな時に泣きたくない、こんな時に女の涙を使うのは卑怯だ。そう思っているけれど 視界はボヤけていくばかり。
そんなわたしを困ったように見つめてレイさんは言った。
「そういう顔で男を見るもんじゃない、そう言っただろ?」
『………』
何か一言でも返したら、涙が溢れてしまいそうで何も言えなかった。
「そうだな、じゃあこうしよう。ニレが私の正体を知って それでも逢いたいと思ってくれるなら…
先ずは私の正体を突き止める所からだな。」
『本当に?私がレイさんが何者か分かったら会ってくれるのね?』
「あぁ、約束しよう。だが、ニレが最初にやるのは私が何者かを当てる事じゃなく、ベッドルームのシーツを変える事だな」
キョトンとするわたしに、ニヤリと笑って答えた。
「愛液の飛び散った跡がそこら中についていたぞ」
『バカ!恥ずかしい!もう帰って!』
溢れそうな涙が引っ込んだ。そんな私を見て笑いながらレイさんは行ってしまった。