第68章 悩み*茶倉
放課後の一時間にも満たない時間はなんだか長く感じたのに、学校を出て今こうして寝ようとするまでの五時間くらいは短く感じられた。
少し布団がひんやりとする時期。
何となく、でも確かな冬の訪れを感じた。
冬が終われば、春だ。
桜の季節が今一度やってくる。
桜吹雪の舞うグラウンドの景色を私はまた美しいと思うだろう。
しかしそれは今年見た桜とは違う。
取り戻した過去の思い出が。
桜花との思い出が。
亮さんとの思い出が。
帝光での思い出が。
そしてこの一年間の思い出が。
バスケ部での思い出が。
紅子先輩との思い出が。
千秋との思い出が。
紗音との思い出が。
そして。
真くんとの思い出が。
和くんとの思い出が。
私を支える思い出が、私を変えていく。
濃い一日の終わり。
濃い一年の終盤。
段々と温もりを持ち始めた布団の中で、ぽつりと呟く。
「ねぇ、桜花……私の大切なことって何?」
それに答えるかのように、一つの言葉が響いた。
『人を助けられる人間になってほしい!』
亮さんの命がけのその言葉は、もう私の物になっていた。
私は誰かを助けられる人になりたい。
ずっと願ってきたこと。
これが私という人間にとって、大切なこと。