第68章 悩み*茶倉
「何か悩んでる?」
その言葉に紗音はぴくりと肩を揺らした。
「…やっぱりこんなとこ見られたらそう思うよね。」
深呼吸をするように、大きく息をつく。
「誰にも言わないでね。」
「もちろん。」
約束するように笑いかければ、彼女も口の端を吊り上げる。
「で、紗音が何を悩んでるか。良かったら聞かせて?」
空気が和らいだのを感じた私は聞いてみる…立ち入ることにした。
やや間が空いて返ってきた言葉は、それこそ大きいものではなかったが、私の中にはっきり響いた。
「私の言葉はみんなにどう響いてるのかなって。」
私から視線を外す。
彼女の目には赤く燃える夕日が映っていた。
「悩み相談なんてしてるけどさ。実際私も悩んでること一杯あるし…そんな私なのに、いいのかなって。」
彼女の声は少しだけ震えていた。
それでもその目は輝きを失っていなかった。
私も紗音を真似て夕日を眺める。
赤く眩しく輝いている夕日は、私たちをどんな答えに導くのだろう。
「大丈夫だよ。」
自然と言葉が出てくる。
「大丈夫。」
もう一度呟く。
目を閉じれば、瞼の裏に赤い光が見えた。
「みんなと同じように悩みを抱える紗音の言葉だから、きっとみんなの心に息づくんだよ。」
光が導く私なりの答え。
多分、きっと。
今しか言えない答え。
どこかで私は紗音のことを特別に感じていた。
人とは違う"何か"を持っていると思っていた。
なんだか親近感を覚えていた。
でも今の私の目の前にいるのは年相応の普通の女の子。
みんなと同じような悩みを抱える子。
…私が望む普通を持っている子。