第68章 悩み*茶倉
「…三波さん?」
一方的にかもしれないが、私は彼女を知っていた。
三波さんは(自分で言うのもなんだが)変わり者の多い秀徳高校の中でも有名人だ。
放送部の彼女は、お昼の放送『秀徳の昼下がり』で悩み相談を受け付けている。
声ももちろん魅力的なのだが、その回答には、はっとさせられるものが多く、生徒だけでなく先生たちの心にも深く刻み込まれている。
かくいう私もその一人だ。
彼女の言葉が私の中にしっかりと存在する。
そして勝手に憧れの気持ちを抱いている。
「え、誰……て、茶倉さん?!」
三波さんの勢いに、重力に負けた椅子がガタリと大きな音を立てる。
「あ…っ。ごめんなさい、驚かせちゃいました?」
「いえ…大丈夫です…」
そう言いながらも、驚いたように目を丸くしている。
なんとか場を繋げようと、話しかけてみる。
「なにしていたんですか?」
そう発して後悔した。
わざわざ一人で、しかも私が話しかけてこんなに驚いたんだ。
人には見られたくなかったのかもしれない。
考えが至らなくて申し訳なくなる。
「大したことじゃないですよ。…というか同級生で敬語っていうのもおかしいね。」
喉を鳴らすように笑う彼女に、私もつられて笑ってしまった。
彼女には特別な"何か"がある。
人の気持ちを動かす"何か"が。
かくいう私もそれを感じていた。
彼女の気持ちと私の気持ちがリンクする。
そして私は勝手に彼女を凄いと思っていた。
でも今その考えを改めることになった。
彼女の笑いの中にある、マイナスな感情が伝わってきたから。
「三波さん。」
「紗音でいいよ。私も優って呼ぶから。」
椅子に座り直し、私を隣に来るように誘う。
「じゃあ…紗音。」
吸い寄せられるように、私は座る。
「ん?」
自分の気持ちを隠すかのように、笑う。
立ち入っていいのかわからない。
でも、私が助けになれるのなら…
「勘違いかもしれないけど…」
「何か悩んでる?」