第66章 真実*茶倉
「俺が小五の夏。
父さんは余命一年と宣告された。
病名は胃ガン。
いつも書くことで物事を消化する人だったのにさ、その日『書けない』って言い出して…
その後父さんは何もしなくなった。
ただフラフラと出て行って、フラフラと帰ってくる。
そんな日々が何日も何日も続いた。
俺を含めて家族は何も出来なかった。
何をしていいのかわからなかった。
いろんな事を教えてくれて、優しく明るかった昔の父さんはいないってわかって、どうにも出来なくって…
そして、俺はモデルの仕事に逃げた。
俺が真剣なところを見せれば元の父さんが戻ってくるんじゃないかって、俺を題材にすればまた執筆出来るようになるんじゃないかって、期待は確かにあった。
……でも何も変わらないまま半年が過ぎた。
このまま最期を迎えてしまうのかともう諦めていた時。
徐々に元の父さんに戻りつつあること気がついた。
優。お前と出会ったからだ。
お前と出会った父さんは見違えるほど元気になった。
そこから、俺は名前しか知らない茶倉優という人物に興味を持ったんだ。
そしてそれから数ヶ月後、あの事故が起こった。
父さんは重傷だった。意識もやっとのことで取り戻したくらいだ。
なんとか意識を得た父さんが一番最初に言った言葉。
『書きたい』その一言。
でもその一言で思ったんだ。
ああ、元の父さんだ…戻ってきたんだ…って。
そして優との出来事を元にした話、遺作『天空華』を書き上げた数日後。
父さんは死んだ。
その顔は穏やかで幸せそうだった。
これも優のお陰だと。
会ったこともなかったけど、俺は感謝した。
父さんに最後の幸せをありがとう。
その思いは今でも変わらない。
……ありがとう、優。」