第65章 記憶と思い出*緑間
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数日後。
一通のメールが届く。
『一緒に私の過去を聞いてもらえませんか?』
茶倉からだった。
アドレスを見る限り、どうやら高尾にも同じ文面が送られているらしい。
春音さんに聞いたところによれば、茶倉は記憶を再び失ったわけではなかった。
この時の俺の気持ちは安心などという言葉では表しきれない、そんな気持ちだった。
今の茶倉は逆に、失った記憶が戻ってくる最中らしい。
何故そうなったかはわからないが、良いことだと勝手に思っていた。
だが、このメールを見て考えを変えた。
茶倉は苦しんでいるのだ。
自分の知らないことがいきなり過去にあった事実として自分の中に入ってくるのだから。
例えが悪いかもしれないが、
誰だって自分の生みの親と育ての親が違うと聞いたら衝撃を受けるだろう。
自分が生まれたということが過去のことであったとしてもだ。
しかもそれが誰かに話を聞く…外部からと、自発的に記憶を思い出す…内部から両方同時に起こるとは、より衝撃的ではないか?
そこまで考えが至って、それでも過去を聞こうとしている茶倉にただ感動した。
そしてその大事な場面に立ち会わせてもらえることに嬉しさを覚えた。